ポイントサイト-1

「またミスったのかよ、ほっんとお前はクズだな。」

奴が耳元で囁く。

「お願いだからもうこの会社辞めてくれよ」

この陰湿なバーコードはげの上司は更に被せてきた。

「すいませんでした」

俺が腰を折らず、頭を下げずに丁重とは程遠い態度で謝ると、
辻雄一郎は薄っすらこちらを睨んで立ち去って行った。

俺はクソ上司の辻が苦手、いや嫌いだ。あわよくば死んでくれと思っている。

確かに今まで同業種で働いたこともないこの会社に
知り合いのコネで途中入社してからの半年間で自分が客側だったら
ブチ切れるかも知れないミスは今回で3度起こしているが、
どこが要所でソレをどう押さえてこなすべきかを教えてくれないあんたの
“仕事は見て覚えろ”的な教育方針は間違っているんじゃないんですかねぇ。

声を荒げる訳でもなく怨みタップリに囁いた言葉が口を付いて出たのは、
既に何度もあんたにお供して行って経験もした上で
ミスる俺の物覚えの悪さが起因しているのだろうけれども、
今回起きた失態の原因はあんたの教育不足なのか、
私の脳ミソの問題なのか、どっちなんでしょうかねぇ。

ま、いいや。家に帰ったら唯一の楽しみTwitterでまた憂さ晴らしすっから。

―帰宅―

大したもんだ。いくらスクロールしてもあのクソ上司の悪口しか出てこねぇ。
我ながらこんだけ書き込める捻くれた根性に悪寒がはしるよ。

ん?スレッドがついてる?

返信先:@○○さん
 はじめまして。
 あなたのご期待に添えるサイトをご紹介させていただきます。
 ×××.jp/××/××××…
 お役立てください。

は?ご期待に添える?お役立て?
明らかに胡散臭ぇけど覗いてみっか……

<日頃の恨み辛みを晴らすポイントサイトへようこそ!>
 このサイトは友達・パートナー・上司・部下などの侮蔑や悪態を書き込むだけで
 [無料で][誰でも][簡単に]ポイントを貯めることができます。

なになに…毎日の鬱憤晴らしを書き込みゃポイント貯まんの?
へぇ~。面白そうじゃん。

<まずは無料会員登録!>
【登録方法】
 下記の項目を入力の上登録ボタンをクリックしてください。
 入力されたメールアドレス宛に仮登録のメールが届きます。
 メール内のURLをクリックして本登録されるとご利用開始いただけます。

よっしゃ、登録しよ。名前は水瀬誠人……

―数分後―

お、来た。

<仮登録完了のご案内> 
 この度はご登録いただきありがとうございます。
 下記URLにアクセスして本登録を完了してください。
 URLの有効期限は仮登録完了後、24時間となります。
 24時間以上経過した場合は仮登録が無効となりますので
 再度ご登録手続きをお願いいたします。

URLをポチッ。

<こんにちは。サポートセンターです>
 「秘密の質問」の設定用URLをお送りします。
 以下のURLをクリックして表示された画面で「秘密の質問」と
 「答え」を設定してください。
 ※[秘密の質問]と[答え]はプロフィール変更や交換に必要となる重要な情報です  
 本人が忘れないように、また他人に教えたりしないように管理をしてください。

んだよ、まだ登録事項あんのかよ……

<本登録が完了しました>
 「秘密の質問」と「答え」の設定が完了しました。
 今後は設定後の「秘密の質問」と「答え」をお使いください。
 ログインはこちら
 ×××.jp/××/××××…

やっと終わったか、ポチッ。

<当サイトの使い方 -初めての方へ->
 あなた様の今後の有益なポイントライフのために
 詳しいご利用方法をご案内しています。
 まずはこちらをご覧ください。

はい、ご覧になりますよぉ。

 利用方法は簡単!あなたのターゲットを侮り、蔑み、馬鹿にし、罵る胸の内を
 ここに書き込むだけ!
 そして貯まったポイントは24時間以内にご指定の人物へ具現化できます!
 その内容は……貯まってからのお楽しみ💛
 では、書き込みへGO!

え?具現化できるって何?だけど、人をけなしたり悪口は俺の超~得意技~~。
そして詳しくって言っときながら利用方法が超~~シンプル!!
説明の中身が簡素すぎて何をどうすりゃどんだけポイントが貯まるか
サッパリ解んねぇけど完全に興味そそられたぁ~~~。
ならば早速始めてみますか…っと。

―2週間後、居酒屋にて―

「またお前あいつに怒られてただろ。ほぼ毎日だな」
「毎日は言い過ぎ」
「いや、合ってる。よかったな、明日一日だけはあいつ出張だから」
「だな」
「そういえば、これ知ってる?」

目の前に座る年齢は一緒だが職場では3年先輩の松真寿志が
こちらにスマホの画面をかざしてくる。
そこにはあの日から始めていたポイントサイトが映し出されていた。
おいおい、コイツもやってたのかよ。

「何だか悪口書き込むとポイントくれるんだってさ」
「へぇ~」

俺は何故かカラ返事で答えた。

「けどそれが貯まったらどうなるのかなぁ」

それは俺も知りたい。
そして画面内でコイツのポイント還元まであと数ポイントと
俺と変わらぬ所まで貯まっていた。

「きっと相手に何かが起こるんだと思うんだけどなぁ」

何かってなんだよ、そこが一番大事じゃね?

「そういやぁ、辻に睨まれた人間は大体その後に不思議と
短期間で連絡もなく居なくなっちまうんだよ。
中には人として初めから存在すらしてなかったかの様に扱われてだぜ。
もしかしたらあのハゲもこのサイトやってんじゃね?」

あ?その話、聞いてねぇし。
やたら気になる話だが、俺の鼻はもう一つの怪しい事実の方を嗅ぎ分けた。
ならばと問うてみる。

「そのサイトやってるってことは誰か恨んでたりすんの?」
「まあ、なぁ」
「どんなヤツ?」
「おない歳」

この瞬間、松真はスマホを片手で閉じて俺を蔑むかのような眼で一瞥した後に
空いている手でジョッキを掴み、8杯目のビールを流し込んだ。

……同い歳って…もしかして!

つづく

ツギクルバナー